中村石材工業株式会社
NO2 淀城跡公園 石垣修復工事 Page2
調査
T ハラミの考察
最もハラミの大きい所は、天端より7mから9mの所で、石垣の下部で多く見られる。位置的にも、石垣の中央部で大きく、通常の石垣位置(角石と角石とを直線に結んだ位置)より1m程度出ていた。その周辺の石材の状態は、極端に尻が下がり、栗石の隙間が多く空疎の状態も見られた。石材の取替え状況から見ても多く、その取替え理由は、胴割れが大半を占めていた。これは、石材が動き、上部からの力に耐えられなくなった為、もしくは、胴部分に詰ってなくて上部よりの力を支えきれなかった為と思われる。
草木の状態を見ると、ツタ等の潅木が密生しているものの、石垣に大きく影響を及ぼしているとは考えにくい。
地盤面では、その影響は段々小さくなっており、最終の撤去場所では40cmと減少していた。
裏込栗石幅も石面より430cmで石材控え長さを引いても、330cm程度あり、決して少ないとは言い難い。しかし、その裏の土は盛土された砂質土である為、流下する可能性がある。
これらの事を考え合せるならば、石積み時石材の形が悪く、重心位置が後ろになり石材が不安定な状態となる事から石積の技術に問題があったのか、土の流下により裏込栗石が全体に下がり、ハラミが生じたのか、そうとすれば石垣の構造自体に問題があったのではないかと考えられる。
(石垣のハラミ状況A) (石垣のハラミ状況B)注.BはAのすぐ下
U 石垣の特色
平石部の石材は、面が比較的平滑で、控え部分に矢跡がある石材が多く、また面部分、控え部分の相方に矢跡がある石材も見られる。石の積み方は乱積みで行なわれており、間詰石を用いて面全体を平滑に仕上げられている。平石であっても、表面にノミ切りされた石材も見られる事から、当初平滑になる様に配慮されたものと思われる。角石、角脇石は、石材の形は不正形であるが、大面、小面共ノミ切り加工されており、平滑な面を構成し算木組の手法で石組されている。
石垣本体の石材使用の特長としては、下記表1に示す通りであり、体積で見る限りA面、B面は0.21㎥、0.24㎥であるのにC面はやや小さく0.18㎥となっていた。また、全体の高さ別では0〜3m0.206㎥、3〜6m0.227㎥、6m以下0.267㎥と下に行くほど大きくなっていくのがわかる。
表 ー1 |
撤去 石材 大 きさ 一覧 表 |
|
|
|
|
|
|
石垣 面 |
使用 場所 高 さ |
表面積 (u) |
裏 面積 (u) |
平均 面 積 (u) |
平均 控 え 長 さ(m) |
体積 (㎥) |
調査 個数 |
A |
1 (0〜3m) |
0.284 |
0.171 |
0.230 |
0.983 |
0.225 |
68 |
2 (3〜6m) |
0.240 |
0.114 |
0.179 |
1.039 |
0.190 |
73 |
|
3 (6m 以下 ) |
0.314 |
0.180 |
0.255 |
1.052 |
0.279 |
70 |
|
全体 |
0.280 |
0.154 |
0.221 |
1.026 |
0.231 |
211 |
|
B |
1 (0〜4m) |
0.280 |
0.155 |
0.219 |
0.991 |
0.213 |
185 |
2 (3〜7m) |
0.280 |
0.154 |
0.218 |
1.078 |
0.241 |
240 |
|
3 (7m 以下 ) |
0.290 |
0.179 |
0.234 |
1.115 |
0.266 |
353 |
|
全体 |
0.285 |
0.165 |
0.255 |
1.074 |
0.245 |
778 |
|
C |
1 (0〜5m) |
0.247 |
0.143 |
0.195 |
0.935 |
0.181 |
97 |
2 (3〜8m) |
0.276 |
0.158 |
0.217 |
0.980 |
0.219 |
71 |
|
3 (8m 以下 ) |
0.297 |
0.168 |
0.232 |
1.059 |
0.248 |
33 |
|
全体 |
0.265 |
0.152 |
0.209 |
0.971 |
0.205 |
201 |
|
全体 |
1 (0〜6m) |
0.271 |
0.155 |
0.214 |
0.974 |
0.206 |
350 |
2 (3〜9m) |
0.272 |
0.147 |
0.21 |
1.052 |
0.227 |
384 |
|
3 (9m 以下 ) |
0.294 |
0.178 |
0.237 |
1.101 |
0.267 |
456 |
|
全体 |
0.281 |
0.161 |
0.222 |
1.048 |
0.236 |
1190 |
平均控え寸法全体の平均値は、約105cmで、その内容は表2に示す通りで、80cmから120cmのせきざいが全体の62%を占めていた。
表 2 |
撤去 石材 控 え 長 さ 別 |
|
|
|
|
|
|
|
|||
|
A 面 |
B 面 |
C 面 |
計 |
上部 石垣 (イ〜ワ) |
||||||
平均 控 え 長 さ |
個数 |
割合 % |
個数 |
割合 % |
個数 |
割合 % |
個数 |
割合 % |
個数 |
割合 % |
|
0.6m 未満 |
12 |
5.69 |
29 |
3.72 |
14 |
6.96 |
55 |
4.62 |
169 |
48.84 |
|
0.6m 以上 0.8m 未満 |
19 |
9.00 |
57 |
7.33 |
25 |
12.44 |
101 |
8.49 |
98 |
28.32 |
|
0.8m 以上 1.0m 未満 |
52 |
24.64 |
199 |
25.58 |
64 |
31.84 |
315 |
26.47 |
54 |
15.61 |
|
1.0m 以上1.2m 未満 |
86 |
40.76 |
272 |
34.96 |
70 |
34.83 |
428 |
35.97 |
24 |
6.94 |
|
1.2m 以上 |
42 |
19.91 |
221 |
28.41 |
28 |
13.93 |
291 |
24.45 |
1 |
0.29 |
|
計 |
211 |
100.00 |
778 |
100.00 |
201 |
100.00 |
1190 |
100.00 |
346 |
100.00 |
← 図@
上部石蔵石垣は、下記表3に示す通りで石材が焼けており、サンプル数は少ないが、これで見る限り体積0.127㎥、平均控え寸法は63cmと、本体石垣に比べて極端に小さい。また、全体の石材の約半数が60cm未満であり、80cm未満の石材が77%も占めていた。この事から、本体石垣石と上部の石垣石に使用されている石材は、別々に取られていたと推測される。
表 3 |
撤去 石材 大 きさ 一覧 表 |
|
|
|
|
||
石垣 面 |
使用 場所 高 さ |
表面積 (u) |
裏 面積 (u) |
平均 面積 (u) |
平均 控 え 長 さ(m) |
体積 (㎥) |
備考 |
イ |
3m
以下 |
0.285 |
0.149 |
0.244 |
0.719 |
0.162 |
67 |
ロ |
3m
以下 |
0.289 |
0.130 |
0.214 |
0.609 |
0.137 |
50 |
ハ |
3m
以下 |
0.237 |
0.081 |
0.165 |
0.638 |
0.115 |
78 |
ニ |
3m
以下 |
0.195 |
0.076 |
0.159 |
0.457 |
0.073 |
9 |
ホ |
3m
以下 |
0.206 |
0.116 |
0.161 |
0.604 |
0.102 |
36 |
ヘ |
3m
以下 |
0.236 |
0.151 |
0.207 |
0.738 |
0.158 |
6 |
ト |
3m
以下 |
0.278 |
0.170 |
0.238 |
0.715 |
0.162 |
18 |
チ |
3m
以下 |
0.225 |
0.162 |
0.203 |
0.591 |
0.121 |
16 |
リ |
3m
以下 |
0.205 |
0.190 |
0.197 |
0.584 |
0.120 |
6 |
ヌ |
参考 階段 石 |
0.305 |
0.153 |
0.229 |
0.563 |
0.114 |
3 |
ル |
3m
以下 |
0.288 |
0.165 |
0.196 |
0.690 |
0.126 |
15 |
オ |
3m
以下 |
0.193 |
0.142 |
0.187 |
0.515 |
0.099 |
16 |
ワ |
3m
以下 |
0.248 |
0.177 |
0.212 |
0.512 |
0.108 |
29 |
計 |
― |
0.250 |
0.131 |
0.196 |
0.630 |
0.127 |
346 |
本体石垣に使用されている平均的な大きさで見る限り、体積0.236㎥(推定重量約625kg)表面積0.281u裏面積0.161uで、石材のの控え率0.161/0.281で約57%となっており、施工面積599.5uに対して、石材表面積334.4uで単純に考えての石材率は55.8%となっていた、この事は、石垣面積1u当たり0.85tの重量がある事になる。
石組の特長としては、B面下部において(B−999.B−1001番)石材の後ろ部分で隣の石を巻き込むようになっており、石材の形状においては、B−999が一部で加工されている。これは、この石垣全体が単なる野面積みの技法で石積みされているのではなく、当時相当な技術を用いて石積みされていたと思われる。刻印石調査と考え合わせると、伏見城築城時は、野面で石組されており、当淀城築城時には、打込みハギの技法を混ぜながら、石材の再利用を行ない築城されたものと推測される。この為、石垣の勾配、合端において不自然なところが多く見られ、築城当時も相当な労を必要とされたものと思われる。